2019/10/29 02:15

液体の街には、気体や固体を液体に変換できる施設がある。
また、液体を、液体と固体の中間のような物にも変換できる。
ただ性質や形状が多少変わってしまうため、歯車を用いるような精密なものは変換できない。
また、感情や記憶、炎や電気などの現象の類も、持続時間や精度は低いが液体に変換できる。

これらの技術を使って、他の街にはない道具を作っている。
例えば液体化を解除する薬を入れない限り布に近い性質を持つ、水布。
これを用いて液体カバンや液体服、液体テントなどが作られている。
主に水を用いることが多く、分厚い水の膜のような不思議な質感と見た目が面白いと、お土産として人気だそうだ。

液体の炎は寒い時期の暖房装置として利用される。
至る所に張り巡らされた金属パイプに、この液体の炎を流すことで、部屋を暖める。
本物の炎ほど明るくはないがほんのり光を放つため、間接照明としても用いられる。
どの物質を燃やすかによって炎の色が変わるが、液体の炎はなぜかどれも根元が赤く、先に行くにつれて青、緑、黄色という色にしかならない。
温度でなく根元からの距離で色が変わるらしく、人間の大人の身長あたりで黄色くなり、それより長くなっても黄色の部分が伸びていくだけである。

また、鉄や宝石といった鉱物の類を液体にするときもある。
固体の場合に比べて輸送する際に体積が小さくて済むため、形状はどうなってもいいから一度に大量に運びたい場合は便利なのだとか。
また液体から固体に戻した際の形状の不安定さを楽しむといった趣味もポピュラーで、自然では取れない形の石になるため趣があるのだそうだ。

液体化された感情は、飲むとその感情を短時間感じることができる。
他人の感情は上手く液体から元の感情に変換できないらしく、不思議な気持ちになるだけらしい。
一番人気の感情は「悲しみ」で、今の悲しみを和らげたいのではなく忘れたくないから液体化しておきたい、とか、意味も理由もなく悲しみたい時飲むのだという。
逆に幸福感や喜びはあまり液体化を依頼されることはあまりない。
不思議なことにそういった感情を持っているときは、それがいつか終わるものであると想像しづらいものなのだとか。
いつまでも続いてほしい、保存したら終わってしまう、といった心理が働いているのかもしれない。