2019/10/07 12:31

ヘビースモーカーな水龍の住む「雨雲山」と、その麓に広がる一年中雨が降り注ぐ森「雨の森」の境目あたりにある街。

雨の森に生えた植物たちは、感情を吸い取って色が変わるため、淡くカラフルな色をしている。
また、雨の森の植物たちは、感情を栄養にして水分を発生させる。水龍もまた感情を栄養源にしている。

雨雲山は、世界に降る雨のほとんどが生まれ、また帰ってくる場所である。
地球と同じ仕組みで降る雨もあるが、多くはこの雨雲山で生まれた雨が世界を潤している。

雨雲山から雨が生まれる仕組みは、雨の森の植物達と「水龍」、「雨粒お化け」の働きによるものである。

1.雨雲山が、雨の森の水分を取り込む。
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2.雨雲山の中心に住む水龍達は、取り込んだ水分に溶け出した感情を吸い、浄水する。
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3.雨粒お化けは、浄水された水分を受け取る。
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4.水分を含んだ雨粒お化けは、雨雲山のてっぺんからもくもく出る雨雲に乗って、世界に散っていく。
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5.雨粒お化けは気が向いたところに降りる。その際に水分を発散する。これが雨となる。
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6.雨粒お化けは減った水分の量だけ、最初に触れたものの感情を吸い取る。
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7.地面に落ちた雨粒お化けは、雨雲山を目指して地上や川を走る。
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8.雨の森に着いた雨粒お化けは、感情を吸う草木に感情を吸い取られる。
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9.雨の森は感情を栄養にし、吸いきれなかった感情と水分を根から出す。
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10.1の工程に戻る

以上が、雨の街が世界に雨を送る仕組みである。

雨の街の住人達の仕事は、主に水質検査と雨ごい師、雨止め師の育成と派遣、雨具の製造や水龍とのコミュニケーション手段の研究となっている。

中でも重要な仕事は水質検査で、雨の森の根が出す水分と、雨の森に降る雨に含まれる感情の量を常にチェックしている。その理由は、過去に2度起こった「感情増幅の連鎖雨」という災害が発端である。

世界中に特定の感情があふれ返った時、雨の森の水分に溶け出す感情が濃くなりすぎて、水龍達が浄水しきれなくなってしまう時がある。
感情が入ったままの水分を受け取った雨粒お化けは、その感情を世界に拡散する。
その雨を浴びた人はその感情を増幅し、また雨粒お化けに高濃度の感情を吸い取られる。
高濃度の感情を雨の森が栄養にしきれず、水分にもその感情が濃く残る。

雨の森と水龍達の、いわば浄水フィルターのような役割が水を浄化しきれなくなってしまうため、感情の入った水分がどんどん色濃くなって世界に降り注ぎ、その雨を浴びた人がさらにその感情を増幅する。
その感情を雨粒お化けが雨の森に届け、雨の森でまた濃い感情が溶けた水が生まれる。

この連鎖により、世界で特定の感情ばかりがひたすらに濃くなり続ける事故が、「感情増幅の連鎖雨」という災害である。

その異常をいち早く察知し、食い止めるために雨の街は作られた。
感情が浄水しきれなくなったことを検知した場合、雨雲お化け達を説得して雨の街にひたすら降りてもらう。
雨の森と水龍が感情を浄化しきれるまで他の街に雨を降らせないようにする。
こうして、被害を雨の森内にとどめるのが、雨の街の住人の仕事である。

その他の主な仕事である雨ごい師、雨止み師は、雨雲お化けと交渉することで雨を止んだり降らせたりする仕事で、雨の街で試験を受けて合格した者がこの仕事に就くことになる。

雨雲山のてっぺんから出る雨雲の正体は、実は水龍が吸う雲タバコの煙。
水蒸気と、それらを多少結びつかせる成分からなる煙で、吐き出してから少し経つと綿に似た柔らかい感触になる。
この雨雲に雨粒お化けが飛び乗り、雨雲となって世界中に旅をする。
雨雲お化けが下りたあとのこの雲は、植物の街の大樹の水分となる。

この世界の雨は、優しい。涙と一緒に悲しみを和らげてくれる。
この世界の雨は、恐ろしい。幸福な笑顔しかない世界ほど、不幸な場所はない。