2019/11/06 10:44
砂漠に囲まれ、その砂を使用した食器や花器、保存容器などの製造が得意な、砂の街。
そんな砂の街から、機械の街に依頼が届いた。
その内容は「砂漠に迷い込んだ人を助けたい。」
漠然としているが、それだけ切実に悩んでいることが伝わる依頼だった。
依頼を受け取った職人紹介所。
しかし砂の街や砂漠を知っている職人はほとんどいなかったが、ある職員のおじいさんが砂の街出身だと教えてもらい、話を聞きに行った。
若い頃に街を飛び出し、命からがら砂漠を抜けて機械の街に来た、おじいさんフェネックだった。
砂の街からの依頼が来たと聞いたおじいさんフェネックは、レスキュー隊にいた時の話を聞かせてくれた。
実は砂の街は知る人ぞ知る街で、場所を知らないどころか存在さえ知らないがほとんどだった。
砂漠で迷ったりトラブルで立ち往生してしまっても、近くに街があるなどと思わず、救助を要請するという発想すら出ない。
砂の街の住人も周辺をパトロールはしているが、見つかるのはひからびた死体ばかり。
また間に合わなかった…と、自分たちの街の周りで死んでいく人達に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
時にはラクダに乗って、時には自分の足で走り回って、必死に砂漠を走り回ったが、それでも救える人はいなかった。
それが辛くて街から逃げ出したのだと、おじいさんフェネックは話してくれた。
排他的ではないが自分達の周辺で完結してしまっている街は、文明の進化が遅いのだろう。
きっと、機械の街の噂を聞いたのだろう。
依頼を受け、役に立つ道具を作ってくれる職人が住む、この街の噂を。
どんなものでもいい、なにか砂漠で人を助けられる道具を、そんな願いが込められた依頼に違いないと。
曲がった腰で椅子に座っていたおじいさんフェネックだったが、依頼内容を聞き、砂の街の話をするうちにだんだん背筋がシャキッとしてきた。
そして、自分が職人を募ってこの依頼を達成する、と力強く請け負ってくれたのだった。
あの砂漠の砂の特性、天候、砂漠の広さ、どうすれば迅速に砂漠を駆け、その命を救えるか、おじいさんは考えた。
自分が街を出る前に作った無人飛行船。
救難信号弾を搭載して砂漠を飛び、砂漠の至る所に信号弾を落として回るあの飛行船は、誰かを救えたのだろうか。
そして、別の二人の職人と共に、砂の街のレスキュー隊に向けて、いくつかの道具を完成させた。
砂漠を走れる車や船のエンジンとタイヤ、砂漠上の物音に特化した補聴器。
一定時間生物が動かないと自動で救難信号がでる信号弾。
オアシスを作るための自動植物育成機。そして、新品の改良型無人飛行船。
これらの機械を持って、おじいさんフェネックに見送られ、職人たちは砂の街へと向かった。
道中の砂漠でさっそく車や船の微調整、補聴器のテスト、オアシス候補地の選定を行った。
砂の街に到着し、さっそく依頼者に機械を披露すると、目を丸くして驚いた。
街中の人を呼んでもう一度お披露目。怖がるものもいたが、ほとんどの住人は子供のように目をキラキラさせていた。
職人たちもそんな彼らの顔見て、誇らしい気持ちで胸がいっぱいになった。
おじいさんフェネックに伝えたらさぞ喜ぶだろう。
無人飛行船を見せた時、年老いた住人達が静かに泣いていた。
無事に砂漠を抜けたんだね、あの人は。そしてようやく帰ってきてくれた。
この街を救うために走り回って、やっと帰ってきてくれたんだね、と。
破けても補修されて大事に大事に使用されてきた、つぎはぎだらけの無人飛行船が、今日その役目を終えた。