2019/10/19 02:46
本の街に住む、本が大好きなハシビロコウ。
所属は捕獲班だが、本の街は本部と比較的近いため出動する機会はめったにない。
というより本の街にいても出動することはまずないため、常駐する意味は全くないのだが、本が好きすぎて街から出たがらないため、どうしてもという場面以外は主に新人研修の仕事をしている。
好きな本を肌身話さず持ち歩くために、帽子やスーツのポケットに本を入れられるようになっている。
が、その本が重すぎて自力で飛べなくなってしまったため、背中のロケットを使用して飛行している。
喋ることはほぼなく、好きな本の好きな一節を繰り返し読むことが多いため動くこともあまりない。
新しい本を読む姿を見たものは少ないが、ものすごい速さで読むらしく、その時ばかりは口ばしを機敏に動かしてページをめくるそうだ。
喋ることはないにもかかわらず、本の批評家として定評がある。
気に入った本があると、作家のところに飛んでいき、感謝の意を伝えるため深いお辞儀をする。
このハシビロコウのお眼鏡にかなった本は間違いなく人気作になるため、作家はとても喜ぶのだそうだ。
新人研修もまた、本を用いて行う。
新人の種族、特技、趣味趣向を聞いた上で、向いているであろう職に必要な本を見繕う。
質問があれば、その質問について詳しく書かれた本を探してくる。
隕石キャッチャーらしく、災害が起こったとき避難指示を出すためのマイクを肩につけている。
帽子にも非常事態を知らせるランプがある。が、今のところどちらも使用されたことがないそうだ。
どうしても人手が足りず本の街を離れなければならぬ際は、とても悲しそうな顔をして好きな本が詰まった帽子を置き、すさまじい速度で現場に向かう。
そんな、本をこよなく愛する姿から、誰とも喋らず動くことさえあまりないにもかかわらず、本の街の住人からとても愛されている。
そんな彼に、本のどこが好きなのか尋ねたことがある。
後日彼は、ある一冊の本を手渡してくれた。
その本はラブストーリーにしては珍しく、結ばれてから年老いて死ぬまでを描いた作品で、恋人の頃とは違い夫婦になったからこその愛と衝突、別れをハートフルに描いた人気小説だった。
その内容自体が答えのようにも思えたが、その中の一節がとても印象に残っている。
「君は、息をするのが好きかどうか、考えたことがあるかい?」