2019/10/07 12:39
この世界では各街でそれぞれ伝統的な埋葬方法があるが、ほとんどの街では「自然とともに生きて、死ねば自然に戻るもの」という思想が根本にあるため土葬や鳥葬に近い、自然や野性動物の糧となるような埋葬方法を取られる。
ただ雪の街では遺体が凍ってしまい野生動物が食べることも土に還ることもできないため、少し離れた気温が高いところに土葬、または安置されることが多かった。
しかし、雪や雪山が好きだった故人のために雪山と一つになりたいという要望から、遺体を完全に凍結させたあと粉々に粉砕し、雪山に散布する埋葬方法が考案された。
雪山の頂上、もしくは希望の場所で、吹き下ろす山風と共に雪山に散らす埋葬法を専門に行う葬儀屋さんが「凍葬屋」である。
依頼を受けるとまず作業の説明 特に内臓を摘出するために開腹する旨や
葬儀の手順、氷柱を目の前で砕くことを了承してもらう。
次に、遺族と雪山に登るスケジュールを決める(天候により多少ずれることもある)。
迅速に遺体を冷蔵保存器にいれて持ち帰り、内臓を摘出してしっかりと冷凍、
内臓を取り出し個別に凍結させたあと、低温に保たれた肉体に戻した上で全身を四角い氷の柱に入れる。あとは予定日まで冷凍遺体安置所で保管される。
登山は葬儀の一環として徒歩による登山が行われる。
遺体は遺族がソリに乗せて引っ張ることとされているがあくまで形式的なもので、葬儀社の人間が押したり引いたりと遺族に負担がかからないよう配慮されている。
葬儀社の人間はソリを引く係と粉砕機を運ぶ係で、遺体の大きさにより必要人数が違う。
目的地に着くいたらまず、雪山に向けて故人を送る旨を伝える。
その後、親族から故人への最後の言葉を送る時間が取られ、粉砕式が始まる。
粉砕機は上下左右から均等に力をかけられるようになっていて、できるだけ一度に粉々に砕けるように工夫されている。
風に乗って山に散る故人を親族の気の済むまで見届けてもらい、雪の街まで戻ってきた時点で業務終了となる。
今では雪の街のみならず、他の街からも依頼があるんだとか。
今日も凍った風に乗って、温かい思い出と寂しさが降り積もる。